
警備会社に勤務する吉岡は、筋金入りのガードマン。特攻隊の生き残りの戦中派で現在50歳。いまどきの若者の無責任な言動に我慢がならず、「若い奴は嫌いだ」と言い放つ。脚本家・山田太一が鶴田浩二演じる戦中派のガードマンを主人公に、戦後生まれの若い世代との葛藤を描き大きな話題を呼んだドラマシリーズ。第4部の三つのエピソード。
レギュラー出演
鶴田浩二(吉岡晋太郎)、水谷豊(杉本陽平/第1話のみ出演)、柴俊夫(鮫島壮十郎)、金井大(田中先任長)、橋爪功(大沢司令補)、清水健太郎(尾島清次)、岸本加世子(尾島信子)、池部良(小田社長)
スタッフ
脚本:山田太一
製作:近藤晋
演出:中村克史
音楽:ミッキー吉野
演奏:ミッキー吉野グループ(ゴダイゴ)
第1話 流氷
1979年11月10日放送
主な出演
桃井かおり(島津悦子/第3部第3話の回想シーンで出演)、谷川みゆき(女学生)、植木絵津子(女学生)、滝奈保栄(旅館のおばさん)、上田忠好(清次の父)、田中筆子(清次の母)
あらすじ
悦子の死から1年半が過ぎようとしていたが、失踪した吉岡の消息は依然不明だった。陽平は吉岡を探し出し仕事に復帰されるため、僅かな手掛かりを頼りに、北海道の根室に向かった。懸命に探しまわる陽平だったが、全く行方はつかめない。しかし、偶然知り合った青年・尾島清次とともに人づてを当たるうち、ついに吉岡の居所を突き止める。
みどころ
吉岡を東京へ連れ戻すため説得する陽平
吉岡は悦子のことを思い浮かべながら、
「長く、一人の人間を愛し続けると言うことは能力の問題だ。人格の問題だ。くだらん人間は、長く、人間を愛し続けることができない。ときどき、悦子のことを忘れているよ。けろりとしてどうして東京へなんて帰れる。死んでいく人間に『おまえのことは忘れない』『おまえを忘れてけろりと生きることはできない』と言いながら、俺は何度もけろりと生きてきた。俺はもうここで消えていく。忘れてもらいたいんだ」
と、東京へ帰ることを拒む。
それを聞いて陽平は、
「気に入らないね。そうじゃないの、ぜんぜん気に入らないね。俺はね、甘ったれたことを言う気はないよ。『東京で待っている社長はどうなる』、『社長の好意は知ったこっちゃないのか』、なんて言わないよ。俺にしたって、出張費貰って仕事でやってきたんだ。いいですよ、指令補、帰ってくれなくったて、ちっとも俺は構わないよ。だけど、それでいいんですかねぇ、それじゃちょっと・・・始末が付かないんじゃないのかねぇ」
と言う。吉岡は、
「始末?」
と、訝しい表情をする。陽平が、
「『特攻隊で、死んだ友達のことを忘れない』とかなんとか、散々かっこいいこと言って、それだけで消えちまっていいんですかねぇ」
と言うと、吉岡は、
「私はもう、特攻隊を口にはしない」
と、答えるが、陽平はすぐに、
「ところが、そうはいかないって言ってるんですよ」
と、切り出す。吉岡は、
「いくもいかないも・・・」
と、言い返そうとするが、陽平はそれを打ち消すようにして、この後、吉岡のお株を奪うような説得力で切々と話し出す。
「『あの頃は純粋だった』『生き死にを本気で考えていた』『日本を命を懸けて守る気だった』とか、いいことばっかし並べて、いなくなってしまっていいんですか。そりゃ、昔のことだから、懐かしくてきれいに見えるのは仕様がないよぉ。俺だって、小学校の頃のことを思うと、今のガキよりも、ましな暮らしをしていたような気がするもんねぇ。だけど、懐かしいようなことを言いまくって、消えてしまっていいんですか。戦争には、もっとイヤなことがあったと思うねぇ。どーうしようもねーなぁって思ったこととか、そういうこと、いっぱいあったと思うねぇ。『戦争に反対だなんて、とても言える空気じゃなかった』って言ったね。『大体、反対だなんて思っていなかった』って言った。いつ頃からそういう風になっていったのか、俺はとっても聞きたいねぇ。気がついてみたら、国中が戦争をやる気になっていたとか、そういう風にどういう風になっていくのか、そういうこと、指令補、まだ何にも言わないじゃないか!
どうせ、昔のことをしゃべるのならこういう風に人間っていうのはいつのまにか、戦争をやる気になっていくんだってところのあたりをしゃべってもらいたいねぇ。そうじゃないとよ、俺たち、ほんとのところ、戦争っていうのは、そんなに酷いものではないのかもしれない。案外、勇ましくて、いいことばっかしあるのかもしれない。思っちゃうよぉ。それでもいいんですか。俺は、50代の人間には、責任があると思うね。いいこと言って消えてしまっていいんですか。俺は(50代の人間には)まだ、責任があると思うね」。
第2話 影の領域
1979年11月17日放送
主な出演
梅宮辰夫(磯田順一)、小鹿番(横沢)
あらすじ
吉岡は根室から東京に戻り、警備会社に復帰する。指令補でなく一警備員として、厳しい仕事をこなす吉岡だったが、どこかかつてのような覇気がなく、鮫島らは心を痛めていた。一方、根室で出会い吉岡とともに上京した鮫島兄妹は同じ警備会社に入ることになるが、兄・清次は配属された港の倉庫で上司の不正を目撃してしまう。
第3話 車輪の一歩
1979年11月24日放送
主な出演
斎藤洋介(川島)、斉藤とも子(良子)、京本政樹(藤田)、古尾谷雅人(浦野)、見城貴信(吉沢)、水上功治(日比野)、村尾幸三(阿川)、赤木春恵(良子の母)、井上和行(川島の父)、青木和子(川島の母)、江角英明(不動産屋)、絵沢萌子(不動産屋)
あらすじ
ある日、警備中の尾島兄妹は、ビルの入り口付近で動こうとしない車椅子の青年たちに移動をお願いした。ところがその日以降、二人の前に車椅子の青年が次々と現れ、頼みごとをするようになり、二人のアパートに泊まりこむまでになってしまう。吉岡は、青年たちの行動を不審に思い、事情を聞こうとアパートを訪れる。
みどころ
吉岡の家を訪ねる川島
吉岡がなかなか話そうとしないので川島は業を煮やして、
「なかなか言わないんですね」
と、障害者だからと遠慮しないでくれと詰め寄るが、吉岡は見当外れだったり、甘かったりするかもしれないと、躊躇する。川島は、
「本気で言ってくれるのだったら聞きたいんです」
と、お願いすると、吉岡は静かに話し出す。
「あの晩には、まだ考えが熟さなかったが、今の私は、むしろ君たちに迷惑をかけることを恐れるな。と、言いたい気がしている。これは、私にも意外な結論だ。他人に迷惑をかけるなというルールを私は疑ったことがなかった。多くの親は、子どもに最低の望みとして、『他人に迷惑だけはかけるな』と、言う。飲んだくれの怠け者が、『俺はろくでもないことをいっぱいしてきたが、人様に迷惑だけはかけなかった』と、自慢そうに言うのを聞いたこともある。他人に迷惑をかけないと言うのは、今の社会で一番疑われていないルールかもしれない。
しかし、それが君たちを縛っている。一歩外へ出れば、電車に乗るのも、少ない石段を上がるのも誰かの世話にならなければならない。迷惑をかけまいとすれば、外に出ることが出来なくなってしまう。だったら、迷惑をかけてもいいんじゃないのか。もちろん、嫌がらせの迷惑はいかん。ギリギリの迷惑はかけてもいいんじゃないのか。いや、かけなければいけないんじゃないのか。君たちは、『普通の人たちが守っているルールは自分たちも守れ』と言うかもしれないが、私はそうじゃないと思う。君たちが町へ出て、電車に乗ったり、階段を上がったり、映画館へ入ったり、そんなことが自由に出来ないルールが可笑しいんだ。一々、後ろめたい気持ちになったりするのは可笑しい。私は、むしろ堂々と胸を張って、迷惑をかける決心をすべきだと思った」。
黙って聞いていた川島、不安そうに、
「そんなことが、通用するでしょうか」
と、聞くと、吉岡は、
「通用させるのさぁ。君たちは特殊な条件を背負っているんだ。差別するなと、怒るかも知れないが、脚が不自由だと言うことは特別なことだ。特別な人生だ。歩き回れる人間のルールを同じように守ろうとするのは可笑しい。守ろうとするから歪むんだ。そうじゃないだろうか。もっと、外をどんどん歩いて、そう、階段でちょっと手伝わされるとか、切符を買ってやるとか、そんなことを迷惑だと考える方が可笑しい。どんどん頼めがいいんだ。そうやって、君たちを町のあちこちでしょっちゅう見ていたら、並の人間の応対も違ってくるんじゃないだろうか。たまに合うだけで、みんな緊張して親切にしづらい。敬遠したりしてしまうが、君たちをしょっちゅう見ていたら、もっと何気なく手伝うことができるのではないだろうか。君たちは並の人間と違う人生を歩んでいる。そのことを私たちも君たちもしっかり認め合う必要があるんじゃないだろうか」。
川島が、
「権利みたいにどんどん他人に頼めってこと? 周りの人間をどんどん使えってこと?」
と、問うと、吉岡は、
「もちろん、節度は必要だ。しかし、『世話になった』『また世話になった』と、心を傷つけながら生きていくより、『世話になるのは当然なんだ』『並の人間がちょっと手伝うことは当然なんだ』そう世間に思わせてしまう必要があるんじゃないだろうか」
と、答える。
吉岡の話に戸惑いながら川島が、
「世間がそんなに甘いとは思わないけど」
と、言うと、吉岡は、
「甘いとは、私も言ってはいない。抵抗は当然あるだろう。それでも迷惑をかけることを恐れるな! 胸を張れ! そう言いたいんだ」
と、締めくくる。

















