
パチンコ業界にプリペイドカードが導入された前後の3年半、同業界の会社に就職したことがあった。部署はシステム管理室。
当時この会社には全国に22の営業所があり、業務は新規オープン店・リニューアル店の島工事をメインで行っていた。
システム管理室の業務は、
- 顧客全般のサポート等
- 機材や部品の在庫管理、受発注管理、業者管理等
- 店舗調査、島工事の計画・見積り・契約、各方面の渉外等
と、3つに分かれ、わたしは1つ目の業務を担当し、店舗の遊戯台・ホールコンピューター・売上管理用パソコンの設置と各種回線の接続、遊戯台の出玉数がホールコンピューターと一致するかのチェック、パソコンの動作確認・オーナーや店長への売上管理ソフトの操作説明、遊戯台の障害対応をしたり、他にも店舗で作業を行なっている社員の問い合わせ電話を社内から応答したりした。
また、グループ会社には製作所があった。ホールコンピューターの製造、遊戯台に組み込むチップの開発、フロアのレイアウト・デザイン、売上管理ソフトの開発を行なっていた。何度か打ち合わせで製作所へ行ったことがあり、社員に岩城晃一の弟がいましたよ。
さて、かつて20兆とも30兆とも言われたパチンコ産業。1995年をピークに店舗数は減少し、店舗は大型化されて小店舗は閉店の一途を辿ったが、当時は遊戯台が300台未満の店舗がざらにあった。
遊戯台1台の1日の売上は、稀に5万円超の台もあったが、平均売上は2〜3万円だった。300台だと日額600〜900万円の売上になり、閉店後は店長が硬貨計算機でジャラジャラ、紙幣計算機でバサバサと売上金を忙しく数えていましたよ。
東北の営業所へ出張した時、こんなことがあった。所長・営業所員3名とオープン前の新店舗へ行き、予定していた作業を終えると、お店のオーナーがさりげなく、
「島で10にしといて」
と、言ったのだ。所長は、
「はーい、分かりました」
と、返したが、わたしには何のことなのかさっぱり分からない。オーナーがいなくなってから所長に、
「島で10って何ですか?」
と聞くと、所長はニヤニヤしながら、
「節税ですよ」
と、答えたのだ。
実はホールコンピューターで、台単位・島単位・フロア全体を選び、1日の売上の一部を除外する設定ができ、お店のオーナーは、
『ホールコンピューターの島単位の売上は10%減にしてみましょうか』
と、言っていたのだ。
わたしはホールコンピューターにそのような機能があることを全く知らなかった。日額600〜900万円として、月額180〜270百万円、年額2,160〜3,240百万円の売上になり、売上10%減だと年額216〜324百万円分の節税が可能なのだ。ん〜当局側からしてみれば、単なる悪意の申告漏れに過ぎない。
画像の鍵はイメージだが、ホールコンピューターのON/OFFは、鍵を挿して右にONと印刷されたところに捻ると電源が入る単純なものだった。そして、更にONから鍵を右に捻ると節税設定ができるのだが、画像右下の赤線内が削られたマスターキーでないと捻ることができなかった。
わたしは部署から通常の鍵を渡されていた。節税設定をしている所長にマスターキーは所長だけ持っているのか聞くと、
「私、3つ持っているから、営業所に戻ったら1つあげますよ」
と、言われ、営業所でマスターキーを貰った。マスターキーってそんなにあっていいものな?
後日、部署で上司に節税設定のことを質問すると、
「マスターキー持ってるの?」
と、聞かれ、東北の営業所長から貰ったことを告げると、
「はははっ、そうなんだ」
と、笑いながら返すだけで、不審がられることも咎められることも返却することもなく、ホールコンピューターの『操作マニュアル』に記載されていると教えてくれた。
早速、操作マニュアルを確認すると、『節税対策の設定』がしっかりと記述されていて、顧客用の同マニュアルにはこの項目の記載がないことも知った。
顧客から節税の相談を受けるのか、こちらからご丁寧に節税について話しているのか、いずれにしても会社ぐるみで節税のお手伝いをしていたことになる。わたしが入社する前、本社と社長宅にはマルサが2度入ったことがあったそうだが、そりゃそうだろ。
後で分かったことだが、わたしより先に入社した顧客全般のサポート担当社員は皆、マスターキーを持っていた。自分で社内のマスターキーを鍵屋へ持って行き作っていたのだ。各営業所でも同様のことが行われていたと思う。暗黙の了解だった。
業界全体で数千億数兆円の所得隠しをしていたことだろう。当局としては見逃しておくわけにいかない。警察幹部の天下りで組織された大手商事が元締めとなり、プリペイドカード会社が作られ、パチンコ業界にプリペイドカードが導入され、プリペイドカード側の機器でも売上管理を行い、ホールコンピューターの出玉数と売上額が一致することをチェックする二重管理をした。
プリペイドカード導入直前、各営業所ではマスターキー片手に節税をしている店舗を東奔西走したことだろう。幸いわたしはマスターキーを使うことはなかった。

















