
わたしは警戒心が薄いようだ。わたしの気持ちを具象的に例えると、外堀と内堀は体裁程度の無いに等しく、初対面の相手でも平気で本丸に入れてしまう。そして、「シマッタ、こんなヤツ入れるんじゃなかった。失敗した」って、思うことが多々ある単なるあほやんなのだ。でも、そんなわたしも過去に2度だけ強い警戒心を持ったことがあった。
ひとつ目は37〜38歳の頃、仕事を終えた帰りの電車の中でのことだった。乗車率は100%程度でわたしはドア付近に立っていた。すると、後ろから肩を叩かれたのだ。振り向くと白のワイシャツに黒のスーツ姿のアラフィフに見える小柄の男性が立っていた。なんとなく着こなしが日本人とは違うので中国人かなと思ったが、わたしは今までに感じたことがない恐怖心を覚えたのだ。
(為念、中国人に対して偏見はない。「中国の方ですか?」と、確認はしていないので東アジア系の外国人でもいい)
この男性が人喰い怪獣みたいな顔だったわけではない。そっとわたしに近寄り胸元に刃物を突きつけられ金品を要求されたわけでもない。短髪の丸顔で子供には好かれそうな顔立ちだった。ただ、雰囲気が “その筋の人” とは別の異様なダークさを感じて、人を⚫︎したことがあるのではないか? と、咄嗟にそんなことが頭をよぎる不気味さを醸し出していて、この男性から離れたいと思ったのだ。
すると、カタコトの日本語で、
「アキハバラ、イキマスカ?」
と、笑顔で聞いてきた。わたしが、
「次の駅が秋葉原です」
と、答えると、男性は軽く会釈をして、それからは、じーっと一点を見つめたまま立っていて秋葉原駅で降りた。果たして彼の正体は何だったんだろ?
ふたつ目は40代前半の頃、当時お付き合いがあったIT社長から、紹介したい公認会計士がいるので夕食を一緒に取らないかと誘われ、指定されたお店へ行くと、既にふたりはテーブルに着座していた。
公認会計士の男性は、シチサンのナチュラルヘアーで鼻筋が通った面長のしっかりした顔立ちで、いかにも公認会計士らしい金縁のスクエア型メガネをかけ、ネクタイをしたスーツ姿の中肉中背でどちらかと言えばイケメン部類だった。年齢はわたしと同じくらいだったかな。
しかし、わたしは着座する前にこの公認会計士を見た時、一瞬足が止まりイヤ〜な感じがしたのだ。
面白いことに、こちらが警戒すると相手もそれが分かるのかこちらを警戒するもので、公認会計士はわたしが着座しても黙ってこちらを見ているだけだった。
いかんいかん、初対面の相手に不愉快な思いをさせては。IT社長もこの公認会計士はいい人で、今度自社の企画でもお手伝いをしてもらうことになったことを嬉しそうに話した。
そして、わたしが積極的に公認会計士に話しかけていると、公認会計士もアルコールが進むうちに段々とわたしへの警戒心が薄れていき話をするようになった。職業柄なのか、それともこの男性の性格なのか、硬い話が多かったがそれでも場は和み食事を終えてふたりと別れた。
わたしの思い過ごしだったのかな。でもあの時一瞬足が止まったのはなんだったんだろ。ま、IT社長が信頼している人ならわたしがとやかく言うこともない。その後この公認会計士のことは忘れていた。
ところが、2ヶ月後、IT社長に電話をするとどうも様子がおかしい。何かあったのか聞くと、先の公認会計士に騙されたと言うのだ。どういうことかと尋ねると、公認会計士から企画のお手伝いをするに当たり、50万円が必要と言われ、IT社長は公認会計士に50万円を渡した。しかし、いつになっても進捗の連絡がこない。IT社長は公認会計士の事務所に行き、状況を聞くと、
「やってない」
と言われ、ならば50万円を返してくれと言ったら、
「もう使って無い」
と、言われたそうだ。
おいおいおい、それじゃぁ詐欺じゃないか。
「訴えればいい」
と、わたしが言うと、公認会計士とは企画についても50万円を渡したことも口約束だけで、一切書面での契約を交わしていなかったというのだ。
バカなことを。このIT社長は人がいいところがあったがお人好しにも程がある。
わたしの第六感は強ち間違ってはいなかったようだ。
3人で食事をした後、IT社長に、
「あの公認会計士とのお付き合いは止めた方がいい」
と、ひと言言っとけばよかったと後悔した。
さて、事件のことは知らず、写真の有名人は誰でしょう? と、聞かれたら、『大物フォークシンガーの学生時代の写真』『大御所落語家の若かりし頃の写真』と、答えたとしてもおかしくないだろう。
ひょっとしたら、普段はこのような笑顔を見せることはなく、奇跡の1枚だったのかもしれないが悪人には到底思えない顔だ。ほんと人は容姿や身なりだけでは判断できませんね。

















