秋なのに「夏を拾いに」

 先月末、「9月ももうおしまいか」と思っていた時、ふとやらなければならないことがあったことに気が付いた。しかし、気が付いただけで何をやらなければならないのかが思い出せない。丁度、顔は覚えているが名前が出てこない、歌は知っているがタイトルが出てこないに似た身体の内側がこそばゆい症状を発症した感じだ。

 しばらく、なんだっけなぁと考えていたが、思い出すきっけかとは面白いもので、この時わたしは “夏” だけは覚えていたのだ。夏、夏、夏…そうだ! 本を買おうとしていたんだ。夏は本のタイトルの最初の一文字で夏のなんだっけなぁ…。夏の思い出? いや違う、夏を捨てに? 捨ててどーする。拾いにだ! 「夏を拾いに」だと思い出すことができた。

 「夏を拾いに」は産経ニュースでも『今年の全国有名私立中学・高校入学試験に、最も多く選ばれた小説のひとつ』として取り上げられ『本書は、昭和35年生まれの著者が小学5年生頃(昭和46年)の、故郷・北関東でのひと夏を回想しながら綴(つづ)った、いわば和製「スタンド・バイ・ミー」』と紹介されていた。

 作者は森浩美氏。作詞家で、KinKi Kidsの「FRIENDS」「愛されるより愛したい」、SMAPの「青いイナズマ」「SHAKE」「ダイナマイト」、荻野目洋子の「Dance Beatは夜明けまで」、田原俊彦の「抱きしめてTONIGHT」など、数々の歌手の作詞を手がけ、作家・脚本家としても活動している人物。

 わたしは作者よりは少し年下だが、昭和46年はわたしも小学生だったことと、「スタンド・バイ・ミー」は観たことがあり、秀作だと思っていたので、「夏を拾いに」はどんな物語なのか興味を持ち読んでみたいと思っていたのだ。わたしは思い出しついでに、忘れぬうちにと書店へ赴いた。

 大概の書店では当たり前に新潮文庫、角川文庫、講談社、集英社など大手出版社の文庫は本棚一面を使い陳列されているが、この「夏を拾いに」は双葉社が発行元だったため、あまり大きくないこの書店には置いてあるか不安だったが、案の定文庫本コーナーを二回りしたが「夏を拾いに」は見つからなかった。

 念のため、わたしの傍で棚の整理をしていた店員に「『夏を拾いに』はありますか?」と、聞いてみた。

 店員は「少々お待ちください」と、従業員室に行き、カタカタとパソコンのキーボードを打つ音が聞こえてきた。おそらく在庫管理システムで在庫有無のチェックをしているのだろう。

 しばらくして、その店員がわたしの傍に来て、わたしが立っている目の前の本棚から一冊の本を取り出し「こちらの本でしょうか?」と「夏を拾いに」の本を提示した。

 わたしは本を探すことも出来ないらしい。
ァ ‘`,、’`,、( ゚∀゚) ‘`,、’`,、

 読書の秋、購入後早速、秋なのに「夏を拾いに」を読みふける。
 物語のプロローグは現在(平成19年)の主人公の職場・家庭の話ではじまる。そして、主人公の「不発弾(爆弾)」という言葉に興味を持った息子との会話から主人公が小学5年生だった昭和46年の夏休みの出来事(不発弾探しという冒険の話)に遡り、エピローグでまた現在に戻る流れで、「スタンド・バイ・ミー」と同じ構成になっている。

 物語のところどころでは、当時の世相、テレビ番組・CM・アニメ、流行歌、流行語、決めゼリフ、子どもの遊びが出てくるので、わたしは物語を共有することができ、ポップソングで例えたら、2002年にヒットしたキンモクセイの「二人のアカボシ」の曲のようなノスタルジックを楽しめた。

 「『17才』は森高千里じゃなくて南沙織だろ」というアラフィフ世代で郷愁にかられたい人には一読の価値がある本かも。

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