真昼のビル階段でのミステリー

 わたしが30代後半の頃の話。湯島の某社で委託された仕事をしていたことがあった。ビルは11階建てで、この会社は2階を受付、総務部、営業部、開発部の一部、4階を開発部として入居していた。

 わたしは4階の開発部で仕事をしていたが、時々2階の開発部に行くときは、高々2階の昇り降りだったことと運動にもなるだろうと、エレベーターは使わずに階段で移動していた。

 何度目かの階段での移動の時、2階から3階へ上る時の踊り場を過ぎたところで、おや? と、わたしの後ろに誰かがいる気配を感じたのだ。しかし、振り向くと誰もいない。まぁ、気のせいかとその時は気にはしなった。

 ところが、その後も2階から3階へ上る踊り場を過ぎたところで、必ずわたしの後ろに誰かがいる気配を感じるようになったのだ。でも、後ろを振り向いても誰もいない。これって・・・いや、そんなことは・・・。なお、不思議なことに4階から2階へ下るときは何も感じなかった。

 ある日、満を持して・・・って、よく分からんが、白黒付けないと納得できない性格と職業柄も手伝って、その気配が “霊” であることをはっきりしたかったのでしょうね、いつものように2階から3階へ上る踊り場を過ぎたところで、わたしはゆっくり階段を上ることにしたのである。

 右脚、左脚と一歩ずつ、ゆっくりゆっくり階段を上っていると、わたしの背中に得体の知らない何かがビタ〜とへばりつく今までとは違う感覚をはっきりと感じたのだ。そして、それはわたしの上り方を真似るようにして後を付いてきている。

 なるほど、やっぱり、“霊” だったのね。
 Ψ(`◇´)Ψ

 そう感じた瞬間、わたしは血の気が引く思いで一気に4階まで駆け上がりましたよ。もし、国体で階段駆け上がり競技があったら、間違いなく入賞するでしょう。ってくらいの速さで。

 自社でなかったため、4階の開発部に戻っても、
「このビル、おばけが出るよ~」
 なんて、言えるはずもなく、誰にも話すことはしなかった。

 数年後、この会社は新宿区へ移転した。ここでもわたしは委託された仕事をしたことがあり、同じプロジェクトにはこの会社の20代の男性社員(以下A氏)がいた。

 A氏とは喫煙室で会うこともあり、挨拶を交わすくらいで特に会話をすることはなかったが、ある日突然わたしに向かって、
「俺、霊感が強いんですよ」
 と、自己紹介をしてきたのだ。

「このプロジェクトどう思います?」とか「お酒は飲むんですか?」であれば、まだ返答のしようはある。しかし、この喫煙室が心霊占いの場所でもなければ、心霊の話をしていたわけでもないのに、突然そんなことを言われたら戸惑うばかりではないか。

 ただ、わたしも心霊については昔から興味がある。霊感が強いというA氏はその霊感を使って、わたしが心霊に興味があることを見透かされていたのだろうか。

 巷には霊感があるとのたまう若者もいるので、A氏もそのたぐいなのかと半信半疑だった。しかし、A氏はそれが見えるようで、心霊体験をいくつか話してくれた。まんざらウソではなさそうだなと思ったわたしは、まんまとA氏に乗せられた感じで、それならばと、
「ところで、御社が湯島だった頃、知ってる?」
 と、聞いたら、A氏は、
「知ってますよ。あそこでも働いていましたから」
 と、答えた。

 なら話が早い。わたしが、
「あそこのビルの階段に “霊” いたよね」
 と、聞くと、A氏はさらっと、
「あー、いましたよ。藤泉庵さんも見えましたか!」
 と、答えたのだ。

 見えましたか! ってなんだよ。
「いや、見えなかったけど、感じたよ」
 と、湯島のビルの階段での不思議体験を話したら、A氏は、
「藤泉庵さんも霊感あるんですね」
 と、言った。
 いいえ、なくていいけど。

 A氏には湯島のビルの階段の霊が見えていた。白のワイシャツを着た疲れた顔をしたサラリーマン風の男性だったと言った。なお、そのビルは今も湯島にある。

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