【夢現】真夏の朝の怪体験

 わたしが20代前半の頃の話。平日のある朝のこと、いつものように目覚まし時計のアラーム音で目を覚まし、寝ぼけまなこでベットの上でうだうだしていると、隣の部屋からチラッ、チラッとこちらを覗く人影みたいなものが見え隠れしていた。

 当時住んでいた戸建ての2階は、家の中央にある階段を上ると、左側の部屋の奥の渡り廊下を通らないと、右側のわたしの部屋にはいかれない、とぐろを巻くような作りになっていた。

 ん? 気のせいかなとぼーっとしていると、また隣の部屋からチラッ、チラッとこちらを覗く人影みたいなものが見え隠れし、明らかに誰かがいる気配を感じたのだ。

 寝ぼけ眼が一気に醒め、ガバッと布団を剥ぎベッドから飛び起きて、
「誰だ!」
 と、強い口調で言い、渡り廊下に行くと、隣の部屋には胸元まである黒髪の白装束の女性が俯いたまま佇んでいたのだ。顔は真っ黒で人相は分からなかった。不思議と恐怖心は全くなかった。

 そして、わたしが近寄ろうとすると、その女性は途端にきびすを返し階段の方へ逃げ出したので、直ぐに後を追うと逃げ足が速いこと速くないこと。わたしが階段のところに行った時は、既にその女性は物凄い勢いで階段を風のように駆け下りた後で、正面の玄関のドアをバターン!と開け、独楽鼠のように疾走して出て行ったところだった。ドアは半開きになっていた。

 わたしはこの様子を階段の上から見ていた。庭には玄関に背を向け、お気に入りのブラウスを着たスカート姿でしゃがんで花壇の手入れをしている母が見えた。と、ここでわたしはパッと目を醒ました。夢現状態だったのだ。

 変な夢を見たものだ。わたしはベッドから眠い体を起こし、確認するように隣の部屋を見ると誰もいなかった。ま、そうだろ夢だったのだから。でもあの白装束の女性は気になった。そして、階段を降りようとした時、足が止まった。驚きましたよ。夢で見た光景がそこにあったのだ。玄関ドアは半開きで庭で花壇の手入れをしている母が見え、服装も同じだった。

 夢だったのか現実だったのか確信が持てなくなることがある。妻が「こんなことがあったのよね?」と、出来事を話したことがあり、わたしが「ない」と答えると、妻は「やっぱり夢だったのか」と、納得した。

 この時のわたしはそれだった。夢と現実で見た光景が同じだったので、階段を降りて庭にいる母に確認したのだ。
「おはよ。今、玄関から誰か出て行かなかった?」
 と、聞くと、母は、
「えー!? 誰も出て行かなかったけど。変なこと言うわね」
 と、怪訝そうな顔で返してきた。
 わたしはやっぱり夢だったのかと納得し、夢のことは話さなかった。

 この夢を見た3日後だったかな、学生時代同級生だった女性から電話があり、同じ学科だった女子が医者の誤診で鼻腔がんで亡くなり、葬儀も済ませたことを知らされ、加えて、この女子がわたしのことが好きだったことも話した。

 学生時代、この女子とは話をした記憶がなかった。あったとしても挨拶を1、2度交わしたくらいだろう。小柄で大人しい印象の女子だったことは覚えている。卒業アルバムを開くと、この女子は夢に現れた女性と同じロングヘアーだった。

 ふと、夢に出てきた女性はこの女子だったんだなと思った。裏付ける証拠は何もない。しかし、先に記した通り、恐怖心は全く無かったし、二度と夢に出てくることも無かったし、他に思い当たる節(女性)がなかったからだ。自分で言うのも何だが、いとまごいにきたのだろう。

OpenClipart-VectorsによるPixabayからの画像
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