不味けりゃ、不味いと言おう

 最近の外食産業は弱肉強食の生き残りゲームの感が強く、どこのお店も生き残りをかけて定期的に料理メニューを変えたり、値段を下げたり、サービスデーを設けたり、いろいろな特典があったりして、リピーターが増えるようにお客の獲得に熾烈な闘いをしてこの安さでこの内容!? と満足させられることがある。

 しかし、逆に美味しいと言われる店で料理を食べても差ほど美味しくないときもあれば、これってはっきり言って不味いだろと感じさせるお店もある。写真付メニューと明らかに違う盛り付けや、ひどい時は具が抜けていることもある。

 こんな場合、お客は黙って食べるのだろうか。そんなお客が大半なんだろうなぁ。

 昔から “食べ物のことで文句をつけるな” と言われているが、この言葉はこんな時に使うものではないとわたしは思っている。

 誰かの家で手料理をご馳走になった場合は例え不味くても不味いと言ったら失礼になるが、お店の場合は料理を食べた対価としてお金を支払っているのだから、不味ければ不味いと言ったほうがお店のためにもなり、また、お客側も悶々としながら無理をして食べて消化不良を起こすことがないと思う。

 以前、浜松町でカウンターとテーブルを合わせて10席くらいの小さな中華料理店で昼食を取ったことがあった。夫婦なのだろう、年配のオヤジとオバンのふたりで切り盛りをしていた。

 しかし、昼時なのにわたしが店に入ったときはお客はたったのひとりでラーメンを食べていた。イヤ~な予感はしたのだが、そのままテーブルに着き、味噌ラーメンを注文した。

 ところが、10分経っても20分経っても出てこない。先のお客はすでにラーメンが出されているので、わたしの分だけを作るだけなのに。

 いい加減しびれを切らせ、
「ちょっと、まだぁ~」
 と、不機嫌そうに言うと、オバンから、
「すみませんねぇ、今、出しますから」
 と、言われたが、その直後、厨房の中から、
「ちょっとそれ違うでしょ」
「うっへい、分かってらい」
 と、小声で話している二人の声が聞こえたのだ。

 おまけにオヤジは鼻すすっているし。ますます、イヤ~な予感。

 それから5分くらいしてようやく味噌ラーメンが出された。
「お待たせしましたねぇ」
 と、オバンが申し訳なさそうにやんわり口調で味噌ラーメンをわたしの目の前に置いていった。

 出された味噌ラーメン見て驚きましたねぇ~。『愕然とする』という表現を素直に使ってもいいと思いましたよ。スープは全く見えず、太麺は伸びに伸びきって、まるで、タコ壺から這い出ようとしているタコ足を連想させるくらい器から溢れんばかりに覆い尽くし、その上には体裁程度の野菜類。

 これは、どっきりカメラなのか? 落ちはどこなんだ? それならもう分かったからスタッフの人、ヘルメット被って “どっきりカメラ” と書かれたプラカードを持って出てきてくれ。などと考えながら、一口二口食べたところで我慢の限界。切れました。
「これが、客に喰わせる料理か!」
 って怒鳴っちゃいました。
 あわててオバンがスリスリと近寄ってきて、
「すみませんねぇ、お代は結構ですから」
 と、オヤジを気遣っているのか小声で言いましたよ。

 と、言うことはあんたもこれはお客に出せる代物ではないって分かっていたんだね。わたしは仏頂面でそのまま店を出ましたよ。どっきりカメラではなかったようだ。

 今もこのお店があるのなら、罰ゲームとして是非貴方をご招待したいですね。

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